好きなもの

壁に映った月明り

深夜に目が覚めてのそのそとトイレへ向かう
ユニットバスの窓から月明かりが静かに入ってきている
壁に格子が掛かった窓の形に月の光が切り取られて貼り付けられている
この明りが好きだ
蛍光灯や豆球の明りなどの人工的な明りとは比べ物にならないほど安心する
眠気眼でぼ〜っと歩く僕に
「こんな時間に起きたのか」
とか
「怖い夢でもみたの?」
とか聞いてくる
それは男性だったり女性だったり子供だったりお年寄りだったりする
深夜にしか会えないなんだか不思議で秘密めいた出会い


きみと寝る夜

呼吸するようにゆっくりと瞬きを繰り返すきみの瞳
感情をあまりださない夜の冷たさみたいなきみの表情
まばたきのタイミングが支配するシーツの上
互いに目を見ながらまばたきしかしないまま
穏やかそうなきみのまばたき
二人では大きすぎるベッド
朝になると大抵きみは遠くで背中を向けて眠りこけている
肌を合わせて寝ているきみをこっちへ向ける
眠ったまま腕を絡ませてくるきみ


バンクしたカーヴ

100kmから120km位で気持ちよく曲がれるカーヴ
タイヤから伝わる路面の感触
吸い付くようなタイヤ
走る喜びがタイヤから伝わる
膝の上にある右手でハンドルを僅かに動かす
車体に加重されフレームがぎしっと音をたてる
それは苦しげな音ではなくて
むしろこれ位が丁度良いと言わんばかり
そして車体と一体になった僕は思い描いたそのままの
速度で
ラインで
気持ちで
その大好きなカーヴを走り抜ける