2006-07-01から1ヶ月間の記事一覧

邯鄲の夢(1) - side f - 熱夜

蒸し暑い私の部屋 風の流れを良くして日中に溜まった熱を逃がす この季節は窓を開けたこの場所が一番気持ちが良い いつもの癖で空よりも下にあるビールの自販機に目が行く まだ灯りがついている 今日は一人で帰ってきたんじゃなかったっけ じめじめと鬱陶し…

邯鄲の夢(1) - side m - 夏夜

フローリングのこざっぱりとした部屋 テレビも読みかけの雑誌もなにもない 大きく窓を開けて窓際に立つ彼女 窓から見える夏の空を纏って 泳がせていた目をこちらに向ける 香水が風になびいて漂う 一瞬時間が止まって目が離せなくなる 差し出された手に寄り添…

偶に絡み会って解けて消えて

「海がみたいわ」 「困ったときの定番だな」 真夜中の海は一色で塗り潰されている 「なんだか吸い込まれそうで怖いわね」 「夜の海には魔物がいるんだってさ」 「例えばあなたみたいな?」 「さらっと酷い事を言うね」 いつもは落ち着くはずの波の音もどこか…

静寂の雨の中

似つかわしくない物思いに耽る 揺れる火影が心の輪郭を浮き上がらせる 優しい嘘を何故かける事ができなかったのだろう 嘘を許せない自分の弱さを認めたくなかったのか 目を凝らせば本当の事なんて僅かにも残ってないのに 伸びて踊る陰影は掘り下げた心の闇 …

名も無き日々に捧げる

一緒にいても寂しくて淋しくて 一時の人の物とは思えない感情に流されて 気が付いた時には・・・ 始まりは何時もいつも運命だと思えるのに 続ける事の蛇行と惰性の渦と天啓のように時折差す魔 終わりは何時もいつも唐突で滑稽で どうかしてるのかな・・・ 心…

生きとし生ける

反復して拡がる痛覚を刺激する波紋 目を閉じて畏怖の色と同じ世界へ身を置く 波紋は体へ拡がり色をも歪ませる 体も心も疲れ切って迎える深黒の夜 月や 山や 海や 空や 生きている事の意味 わかる日がいつか来るのかな 消えてしまいたいという儚い溜息 やり過…

夏の夕暮れ

カナカナカナカナカナ・・・ ヒグラシの鳴き声で目を覚ました 部屋に入る光からは明け方なのか夕暮れなのかはわからない 痛む頭を抑えて水をゴクっと飲み干す 乾いた喉に染み入る 何かの鳥も鳴いてる カーテンを開けると日が傾いている 路面が僅かに濡れて光…

誰も居なくなったあの日に決めた そしていつかありのままの先に光を見つけた

毎日水を替えていた一輪の花 すぐに枯れてしまった むしり取ったあの日に決まっていた どうして花は枯れるんだろう 自らを創り組み変えてきた すぐに固まってしまった その足で歩き出した日に決まっていた? どうして人は死ぬのだろう 身長は伸びたけれど大…

新しい生活

新しい部屋の匂い 生活感の無いただの箱 エアコンも無い為に窓を開け放っている 外から電車の走る音が入り込んでくる 電車の音に掻き消されない様に話す声も大きくなる 全てのダンボールを入れ終えて一息つく ダンボールの位置を微妙にずらしてアートを気取…

禁言

よくそう言われるよ 同じような事を誰かしらが言う そう言われる度に少し・・・ ああ そっか またか と頭の中で溜息が漏れる それは意図したものではなくて 例えば冬の朝に最初に吐いた息がたまたま白かったとか 自分って一体何なんだろうっていう幼稚な問い…

止り木

異国の渇いた風が頬を撫でてる 街角で奏でられている音楽が旅人を迎える それまでそうしてきたように 石畳をゆっくりと踏み占める 何かのスパイスの香りが鼻腔をくすぐる ふと目の前を見ると懐かしい笑顔 焼きついた影から陽炎が伸びて景色を歪める ひらひら…

波の音が聴こえる

ざーっ っと返しては ざーんっ と寄せる 母に抱かれて感じていた鼓動や 嵐の夜に歌ってくれた子守唄 甘いような酸っぱいような そんなものにどこか似ている 浜に流れる濡れた砂が行ったり来たり 絶えず砂時計をひっくり返している 単純な作業の繰り返しを飽…

ゲーム

こんな関係は健全じゃない 不自然だよって宙を漂う言葉 体の相性って訳でもない なんだって一緒に居るんだろう 危険を愉しんでいるようにも思えない 月の無い静かな夜に他愛のない話をしながら 隠れるように街の喧騒から離れる 縛られて繋がれている全てから…

均衡

深入りするのが怖くって 自分が変わってしまうのを受け入れられなくて なんで手放しちゃったんだろうって まだ元に戻るかな そんなはずないよね 同じ所をぐるぐるぐるぐる回ってる 一緒にいても圧し掛かる灰色の不安 息が苦しくなって目から光が消えてしまい…

眠る前に

宥める様に聴かせて 眠る前に古い歌を静けさに乗せて その少し掠れた声で ずっとこっちを見ていて 瞼が閉じて眠りに落ちるまで その漆喰のような瞳で 夢の中でも繋いでられるように絡ませて 解ける事も溶ける事もない硬い絆 その闇に映える白い指で 心の音を…