偶に絡み会って解けて消えて

「海がみたいわ」
「困ったときの定番だな」



真夜中の海は一色で塗り潰されている



「なんだか吸い込まれそうで怖いわね」
「夜の海には魔物がいるんだってさ」
「例えばあなたみたいな?」
「さらっと酷い事を言うね」



いつもは落ち着くはずの波の音もどこか恐ろしげに聴こえる
笑い声が吸い込まれて少しだけ怖くなくなって
果ての無い景色に自分の存在の小ささを知る



濡れちゃうからとサンダルを両手に持って砂浜を歩くあなた



「はだしで砂浜を歩く人なんてドラマ以外で初めて見たよ」
「気持ちいいわよ」



二人の隙間を潮風が絡み抜ける
風みたいな付き合いを続けている
何も求めないし何も縛らない
不毛だって呼ぶ人もいる
でも僕らはきっと結末まで知っている



浜辺に座りこんで買って来た飲み物と花火
手を絡める代わりに幾度と交わしてきた
唇を重ねる代わりに幾度と交わしてきた
互いの飲み物を合わせる習慣



「やっぱり最後は線香花火よね」
「そうだね」



小さく燃える火の玉が砂浜に落ちる
生きて行く事で生まれる無数の見えない傷跡
重なっていく瘡蓋は薔薇のように絡まってる
とても大切でとても柔らかくとても脆いものを守っている
解き解す時間と鍵
この広い砂浜のどこかに割れた貝殻みたいに落ちているだろうか
それともいつかの波にさらわれてしまっただろうか