邯鄲の夢(1) - side m - 夏夜

フローリングのこざっぱりとした部屋
テレビも読みかけの雑誌もなにもない


大きく窓を開けて窓際に立つ彼女
窓から見える夏の空を纏って
泳がせていた目をこちらに向ける
香水が風になびいて漂う



一瞬時間が止まって目が離せなくなる
差し出された手に寄り添う
誘われているのか受け入れられたのか
触れる肌は汗でくっついて離れない
緩くウェーブの掛かった髪をかき上げてまとめて
耳元から首筋へ触れる髪がくすぐったい



全身に走っていく甘い感覚に集中する
見上げると今にも落ちてきそうな大きな月
夏の温度とまんまるな月と香水の匂い
こんなに近くにいるのに触れられない
なんだかわからない罪悪感がよぎる
ぐるぐると周りを回って頭が朦朧とする
仰け反る背中から首に掛けての線に舌を這わす



優しく触れたい爪を立てて引き裂きたい