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遅れてきた彼女

夏が終わるな 深夜の高速を自宅へ向かい走っている最中 脳の端々から泡のように浮き出て来た思案 少しウィンドウを開ける なんとなく今感じた言葉を確かな現実にしたくて 金属の塊に切り裂かれる空気が悲鳴を上げている 車内に勢いよく雪崩れ込む夏の終わり …

好きなもの

壁に映った月明り 深夜に目が覚めてのそのそとトイレへ向かう ユニットバスの窓から月明かりが静かに入ってきている 壁に格子が掛かった窓の形に月の光が切り取られて貼り付けられている この明りが好きだ 蛍光灯や豆球の明りなどの人工的な明りとは比べ物に…

屍 -かばね-

不思議な事 理解できない事 その辺りに転がっている奇跡 その中のひとつに蘇った屍がある 彼らは別に人を襲ったりはしない なぜ蘇るかはわからないが彼らはほとんど害をなせない 無論モンスターなどでもない 人間と彼らの決定的な違いは鮮度だ 彼らは新しく…

喉の渇き

昨日のあなたが居なくなってもう随分経つ 心の中にもあなたはもう居ない あなたと別れてから あなたを早く忘れたかった あなたを二度と忘れないと強く思った 大切にしてきたあの時の今は今も額縁に飾ってあるのに 遥かから流れ着く何かを今日もじっと待って…

あなたの事を好きになった人を恨んであげる

身動き一つ取れない状態に固定されている スラっと差し込まれる金属製の異物 目を閉じる事すらできない 皮膚を破って柔らかい肉に突き刺さるナイフ 体中が焼ける ズブズブと 私の中が外に流れ出す 急所を外して何度も刺さるナイフ 意地悪なあなた ズブズブと…

あなたを思うこの気持ちそのものになれたらいいのに

傷つけることなく澱むことなくもなくて こんな事言ったらまた笑われるんだろうな

からっぽ

うっすらと開いた目で何かを見ている訳ではない ゆっくりと上下する胸もただ規則的に動いているだけ 部屋の中に置かれているオブジェクト 何も考えず何も見ず何も聞かない ただひたすらにそこにある 不意に外で大きな音が聞こえ体がびくっと震える あまりに…

風鈴

臨・・・と白一色の朝に眠たい耳に流れ込む 凛・・・と涼を運ぶ音が夏の空気をそっと揺らす 燐・・・と昼の終わりを告げる音が夏の夜に透き通る 淋・・・と寝息を見守るように一緒に眠るようにひとつ鳴る

だからせめて絞りたての上澄みをきみの舌に垂らそう

肌の下さらにその中にある生臭い欲望 脳とは別の所から湧き上がる粘り気のある気持ち それを伝えるには幾重もの神経や血管を抜けて来なければならない 指先に声になる頃には湧き上がった時の影すらなく 底に沈んでいく澱は静謐に重なり続ける こんな事をして…

止めたって聞かないくせに

どうして私を選んだのか どうしても会いたかったから? それとも誰でも良かったの? なんてね あなたと過ごした毎日 可笑しくて下らない事で笑い合えた日々 いっぱい過ごした いろんな事したけど 覚えているのはあなたの事だけ 見ていたのは見て居たかったの…

砂時計

「一日しか記憶が持たないんだ だからきみの事を好きになっても 明日にはもう今日の僕は居なくなってしまう」 顔立ちが整った肌の白い男はそう言った 角度や光の反射によっては女性のようにも見える 対照的に大きく黒い瞳が濡れて揺れている 「その日で忘れ…

砂漠の夜

ねえ私の大切な人 あなたの事を考えては一つ指を折って あなたと出会ってから過ぎた日を数える 夏の雨の音が聴こえてくる どこか心地よくて守られているようでもあって 私はあなたを想いながら目を閉じて朝を待つ あなたの居る朝を待つ 私の中の砂漠でいつま…

砂の器

掌から零れてくよ たくさんの言葉が きみに言いたかった言葉や言った言葉たちが さらさらと音をたてながら零れてく きらきらと光放ちながら落ちてくのはとても綺麗なんだ 見惚れ魅入る その美しさ以外の感覚が止まってもその美しさを止める事はできない ただ…

君のその細い指がキーボードの上で踊るリズムが何より心地良いんだ

何かが楽しくて充実してしまうと他の何かが疎かになるのかな 自分が更新した日記の一覧を見てそんな事を思った 自分が残した足跡 ブログを知らなかったら消えていったかもしれない足跡 雪原に残る小さな動物の足跡みたいに小さくはっきりと黒い点 書きたい事…

明晰夢

夢を見たんだ 突然何かに襲われる夢 すごく怖かった 必死で逃げたんだ そこから逃げた どこへ行くともなく とにかく走った この辺りから夢だって気がついたんだ 地面を蹴っている感触がなかったから それでも走ったんだ 妙なことに息は上がるし心臓も高鳴っ…

独りが寂しいのは神様も一緒なんだよ きっと

時間が初めて進み始めた頃 たくさんの神様とたくさんの人間は仲が良かったんだって 遠い昔の御伽噺 小さい頃におばあちゃんがよく話してくれた 平和な楽園を想像して私はよく眠れた 彼は死んだ 何年か前に誰かが言ってた それは多分正しいんだ 私には彼が生…

燃え盛る業火だけが身を焼く訳ではない

疲れた。 いつになく疲れが残っている。 痛む目頭を押さえながら自宅へ。 ここの所、執拗な嫌がらせと悪戯電話で妻の美悠はかなり参っている。 電話番号を変えたり等の対策は取ったが、どこから漏れているのか対して効果はなかった。 自分が自宅に居ない平日…

いまはとおく

名前のない僕を だれか呼んでくれるのかな いつかどこかで 未だ聞かぬ自分の名前という意味 わかる日が来るのかな いつかどこかで 誰しもがそのままで愛されていた頃 唯愛されていたその日々 タダシサとかマチガイとか アカルイミライとかツライカコとか マ…

水鏡

降り落ちた雨粒が巻き戻されてくみたいに まあるい気泡が空へ吸い込まれてく 手元にまで届く太陽のやわらかさ 空と底を隔てる表層がゆるやかに捩れている 力の限り空の向こうへ向かって推進してみる きっと透明な壁越えて 纏まり付いた君達も連れて ねばねば…

傭兵達

背中が丸くなった自分の影を虚ろに見詰める 過ぎぬけて行く毎日に色濃くなっていく疲れ 積もった枯葉を小気味良い音で踏み潰しながら 「久しぶり」 背中越しに懐かしい声 「うん ちょっとふらふらしてた」 「一人でか」 「そう」 「たまには顔出せよ 骨拾っ…

認めたくない自分の色

自分の赤い赤い色 血が上り滾る色 塗り潰したくて消し去りたくて その青く青い青さを重ねる 赤の上に塗りたくられた青 二つが混じって濁って化膿している 薬品の匂いが鼻につく 壊したくてやり直したくて ぐちゃっりしたそこに白をそっと塗ってみる 汚くて拉…

聞こえるはずのない秒針の音がデジタルの時計から聴こえる その一つの時間が増えるタイミングがわかる デジタルの表示が切り替わる 時計の針が動く 目を閉じるように開く空間 降り積もった何かに誘われ肩を叩かれたのか 同じ時間 同じ夜 同じ気持ち いつか来…

なんて言葉を書けたらいいだろう

夜の合間を縫って 夜と夜を繋ぎ合わせて ようやく辿り付いたこの夜 離れたくない離したくない夜 曇った目で探し当てた宝物 傷だらけの手に握られた硝子玉 撃ち抜かれたこめかみがズキズキと痛む 泣き腫れた顔で微笑んで 「あなたの手は壊すためにあるのね」

叫び

声を上げた 産声にも断末魔ともわからない叫びを 自分の持ち得る力をありったけ喉に込めて撃ち上げた 張上げられて空へ上る声は連なる岩山に響いた 灰色に繁る古代の森に木霊した 鳥達が一斉に羽ばたき空を覆い隠した 夏のスコールを降らせる雲がそうするよ…

黒い風 黒い気配

ひたひたと足音がついてくる どこまでも どこまでも 足元に伸びる 黒い影 黒い犬 振り返ると気配だけ残して 一陣の風が吹く 風と共に 風の中に その気配を見張る 見つからないように 決して見つからないように 彼らの遠吠えが響いている どこに逃げても無駄…

あらゆる類の悪夢

日替わり分替わりで夢を見る 普段まったく見ない覚えていることのない夢 ざらざらとした砂の壁のような肌触りの夢 苦虫をかじったような歪んだ目障りな夢 目を覆いたくなるような惨状に彩られたサイケデリックな色彩 目を開けても残像が残る強烈な夢 今見た…

眠りにつくまでの15分

ひんやりと粘度のある闇が手を広げている 包むように犯すように少しずつ染込んでくる トマトジュースのような指先が心と体の隙間に差し込まれていく 見たくない考えたくない自分のグロテスクな部分 想像力という暴力 目をつぶっても叫んでも抑えられない変え…

人生を彩る10の質問

1.今朝飲んだコーヒーはどんな味でしたか 何を見ながら飲みましたか? 2.昨夜飲んだお酒はどんな味でしたか? 誰と飲みましたか? 3.シャワーで流したかったものはなんですか? その時の排水溝を覚えていますか? 4.あなたが最後に見た雨は何色でしたか? そ…

誰かの忘れ物

足元に音符を見つけた 土と埃にまみれて埋まっていた 小さな小さな記号 暖かい風の吹く日だった 辺りを掘り返したらもっと出てきた 自分の前の空間を楽譜にして音符を並べてみた 大きさがちぐはぐで少し疲れた音符達 なんだか並べてみると間の抜けた感じがす…

泣きたい理由は見つからなかった

とても悲しい夢を見た 悲しすぎて目が覚めた時には全て忘れていた 目を開けた僕の頬には涙が流れていた 部屋の湿度に今日は雨だと思った 雲ひとつない空に雨の匂いもしなかった 余計悲しくなった 水っぽい一日 シャワーはいつもより多く弾けながら流れて 歯…