止り木

異国の渇いた風が頬を撫でてる
街角で奏でられている音楽が旅人を迎える
それまでそうしてきたように
石畳をゆっくりと踏み占める
何かのスパイスの香りが鼻腔をくすぐる



ふと目の前を見ると懐かしい笑顔
焼きついた影から陽炎が伸びて景色を歪める
ひらひらと仰ぐように手を振っている
何気なく始まる緩やかな会話
数年ぶりに会ったのに変わらない
居心地のいい空気に包まれる
まるでそこだけ生まれ育った土地の空気が漂う


「顔つきが男らしく逞しくなった」


「そっちは相も変わらず」


無精髭の間から爽やかな白い歯が覗く
最初に出会った頃の話をぽつぽつと話出す彼
なんだか恥ずかしくなって顔が火照ってくる
悟られないように建物の木陰でしゃがみこむ
「ここは少し暑いや」
そこで売っていた果実をかじる
酸味に顔をしかめる



「あの頃は楽しそうな顔だったよね」


ふとした台詞に虚を突かれる
思わず表情が消える


「こういう時間も忘れるくらい遠くへ来たのかな」


さっきまで吹いていた風も何時の間にか止んでいた
土地の気候か燻んだ空に近く大きな太陽が照りつける


「ほんとに長かったような短かったような」


「まるで旅が終わるかのような言い方だね」


何気なく互いに微笑む



「また何処かで」


「うん また」


手を握り締めて固く思う
約束というよりは祈りに近い儀式



目の前には果ての無い道が続いている
足取りに任せてまた一歩ここから歩き出す