隣の人

多くの人で賑わっている
屋台で買って来たたこ焼きと缶ビール
すっかり日が高くなった
今は既に太陽はビルの向こうに沈みかけていて見えない
彼方から迫り来る宵闇
薄く掛かった雲が夜と昼を繋ぐ
不吉なようなそれでいて鮮やかなグラデーション
ビルの隙間からは熱気を溜め込んだ空気が陽炎を作る
少し離れた所にあるチャペルらしき建物から鐘が鳴り始める
目の前の電灯が光り始める
その時間を知らせる
賑わっている人々が見ている方向
水平線の僅か手前から試し打ちの光
少し遅れて打ち上げの音が響く
夜の色は加速を続け空を支配していく
潮の匂いを巻き込んだ風が冷たく心地よい
缶ビールの表面には雫が滴る



空を見ながら他愛の無い話を続けている
こんな状況に体と心が固くなる
今更なんて思われるかもしれない
今日の花火大会に誘ったのは私の方
電話中にたまたま目に入ったチラシがそれだった
話をしながら横目で見遣る
白い浴衣に芥子色の帯をしている
男物の割りには珍しい組み合わせだ
とりわけ昼も夜も際立つ
下駄を脱いで足を折り曲げて軽く組んでいる
時々妙に艶っぽい表情
それを演出している濡れた眼
しならせた体にも色気がある
女の色気に似ていてどこか決定的に違っていて
冷めた眼をしていると思ったら
本当に子供のように無邪気に笑って
すらっと伸びた指や肌蹴た胸
そのまま倒れ込みたくなる
女が抱きたくなる男



コドモとオトナ
オトコとオンナ
そのどこにも属さず
そのどれをも合わせていて
中性的過ぎてこの世界の上に危ういバランスで漂っているかのよう
なんだか不思議な人



最初の花火が打ち上がる
自分の心臓が爆発したような音に息を飲む
花火を見ているあなたの眼に映る花火