振り返った景色に記憶が滲んで

あなたに手を引かれてここへ来た時
見渡せた街並みはなんだか少し怖くて
でもなんだか綺麗なものに思えて



ひとりでここへ来て見下ろした街並み
寂しそうで少し埃被っていて
あの頃の風の匂いだけが今も変わらず



懐かしい街並みはどこか冷たくて
変わったのは自分?



学校の帰りにここで
他愛のないことばっかり話してた
思い浮かぶあなたはいつも笑ってた
何してもかっこ悪かったはずなのに
今思うとかっこ良かった気がする



疲れた男が鏡に映る
いつからこんな顔をしているんだろう
鏡の中の男は問い掛ける
時間を消費しているだけなんじゃないか?



残酷すぎるほど完璧な時間
その時間を動かすための歯車
機械仕掛けの毎日の中で
それすらどうでもよくなってくる



怖いものばっかりで逃げ回ってたと思ってた
今はそれすらできない
代わりにできるようになったのは
場を収める為だけの作り笑い
いい笑顔だねって言われる度に少し悲しくなる
そんなんじゃないんだって言いたくなる
悲しいから嗤うんだ



近くの自動販売機で何時も飲んでた炭酸飲料を買った
よく座ってた場所で缶を開けて飲んでみる
喉を刺す刺激に思わず咳き込む
なんだか急におかしくなって苦笑いがもれる
あなたと描いた落書き
少し色褪せてるけれど残ってた



この風はずっと前からここに在って
この空もこれからも変わらなくて



他の誰かがこの景色に気付いてくれたらいいな



階段を降りて車に乗り込みキーを回す
夕闇に染まる空を後に
いつもの僕の時間へ帰る



色褪せて輝く幻燈みたいなあの頃と
彼方に見える蜃気楼みたいな明日の狭間に