アンドロイド ノ カゾク

妻が亡くなり私は人生を見失っていた
ただ仕事をして家に帰る
それの繰り返しをしていただけだった
それに見かねた友人が薦めてくれたのが
家政婦のアンドロイドに妻の記憶の一部を移植する事だった
今の科学力では全ての記憶をアンドロイドに移植する事ができないのだそうだ
なんでも処理が多くなってパンクするとか
人格が形成されてそうなると法律も絡まってきて面倒だとか
そんなところらしい



そういう訳で一週間のメンテナンスから返ってきた
いや帰ってきたと言った方がいいのか
アンドロイドは少し違って見えた
ふとした瞬間に振り向いて僕を呼ぶときの声の出し方や
目に掛かる髪を耳に流す仕種
そんな本当によく見てなければ気付かないような
その彼女の持っていた雰囲気を
雰囲気に気付いてしまう
嬉しくもあり
愛しくもあり
やっぱり彼女は居ないんだという寂しさも



不思議なことに何ヶ月かこういう生活をすると
慣れてくるというか
奇妙な愛着が沸いて来るようになった
認めたくはないのだが
違うと解かっていても
いや
アンドロイドを彼女とは違う女性として見ている自分に気が付いた
そうアンドロイドを愛してしまったとでも言うのだろうか
別にこれといって珍しい事ではない
ピュグマリオニズム、人形嗜好の奴らだって今じゃ利権があるんだ
そのアンドロイドを愛する感情に気付いた直後に
彼女は動かなくなってしまったんだ
まるで亡霊にでも殺されるようにね
妻の仕業だって? この時代にそんな話はないだろう
現にその時にマイナスのエネルギー因子すら計測されていない



問題はね それがとても悲しかったんだ
アンドロイドと結婚する奴らの気持ちが少しわかったよ
そしてもう二度とそんな事はごめんだね
だから僕もアンドロイドになったんだ
もう何も悲しい事なんてないよ