時間移動

夢の中で君を殺せたら
僕が時間を操れる唯一の場所
あの感覚が欲しい
もし夢と現実の境が曖昧になれば
時間を戻すことも可能なのではないか
君に会いたい



そして君を見つけた
亡くなる前のまま
景色や感覚に残像が残るが構わない
僕は君の細い首にもう一度手を掛ける
君は痙攣して口から泡を流す
それでも瞳の光は消えない
また首を絞める
何度も
何度も



君を殺すことに飽きた僕は
その場に眠ろうとする
手を離そうとすると
君は僕の眼をみてこう言う
「会いたかった」




怯えて声を上げその声に目覚める



周りを見渡すと
見慣れた部屋
汗をびっしょりかいている
ひどく疲れている
そのままもう一度寝てしまう
夢の中で僕はいつもの生活をしている
会社と家との往復だ
君を殺すことで満たされたのか性欲は沸かない
電車の中で地元の駅を待つ
「捕まえた」



そこで眼が覚める



さっきとは少し違う景色の違和感に気づく
君が立っている
鈍い存在感と共に
僕は話しかける
「なぜいるんだ?」



君は何も言わず
僕の首を絞める
力が入らず
抵抗できない
苦しい
目の前が暗くなる
薬物か何かか?
そもそもなぜ彼女がここに
「そっち側はどう?」



差し込む光に起こされる



腕時計を見ると朝の7時半だ
外の日差しが眩しい
会社に向かう電車でうたた寝していたようだ
駅のホームへ降りる
「待ってたわ」



眼を開いて辺りを見回す




僕はベッドでぬいぐるみと一緒に寝ている
小さい頃にお気に入りだったものだ
部屋の扉が開いて
彼女が入ってくる
僕のぬいぐるみをズタズタに引き裂いて
僕の首に手を掛けてくる
僕はまた抵抗もできずに意識を失う
・・・また?
彼女って誰だ?
「もう少しよ」




気がつくと公園のベンチだった
少しアルコールが入っているのか
頭痛がする
ここは何処の公園だろうか
少し見回しても見覚えが無い
そういや何処かで飲んだっけ・・・?
「逃がさないわ」




眼が覚めると



公園のベンチにすわっていた
めがよく見えない
どこのこうえん?
たくさんのこえがする
てとあしがうまく動かない
ことばもうまく話せない
コトバ?
ハナス?



ボクハ?
コワクナリ
ナキゴエヲアゲル



僕をあやす声がする
首に暖かな手が掛かる
「さようなら」