眠れる夜の欲望

とても深いところで蹲っていた
体を丸めて生まれるときみたいに
誰かの囁く声で薄く瞼を開く
歪んだ視界はとても眩しい光だけ



赤い雷が頭に響く
腹部に感じる強烈な違和感
喉の奥に香る金属の味



闇に溶ける三匹の狼
眼と牙だけが禍々しく夜に浮かび上がる
目の前にあったそれはいつの間にか左腕に絡み付いていた
まだ朦朧とする頭に痛みだけがリアルに突き抜ける
倒され覆いかぶさってくる夜の獣



「んん これは死ぬかな」
「ロクな事してこなかったし 運も尽きたってわけか」
「それも悪くない」



頭の中の誰かが遺言のように呟く
月の冷たさのように響く
あまりに透明すぎるその現実
近づいてきても他人事みたいで
体液が暖かく流れ出す
その燃えるような色を見て
頭が焼き尽くされる
無意識の奥でひっそりと眠っていた
アイツが起きる



それをみて身構える2匹の犬
一匹はもうそこに倒れている



破裂しそうに動く心臓
その力を余す事なく伝える管
生きていると実感する体
生きることを躊躇わない頭
生きる衝動に支配される全て
アイツが悦び叫ぶ





いつものベッドで目を覚ます
呑みすぎたせいで頭が痛む
乱れた服と手についた汚れ
全てを朝の光と水で洗い流す



何が起こったか
知らない
分らない
覚えていない
知る必要も無い



いつも通りの朝