癒着

後悔してないと言ったら嘘になるわね
あの時は他に術も知らなくて
今考えると自分も子供だったって
私たちが求めていた関係っていうのはね
ありふれているけれど磨きあっていける
そんな他愛のないものだったはずだったの
でもこういうものって
何処にでもありそうで
何処にも無いのよね
大抵は



そのくせ手に入れるとそれっきり



お互いに酷い事もしたし
傷もつけあった
悲しい事もあったわね
もちろん夢中になっていたから
そんな痛みすら甘んじて受け入れたわ
まるで犬みたいよね
これに耐えたらご褒美が貰えるなんて思ってたのかしら
思ってたのよね
心のどこかで
それを望んでたし
望むようになったのよ



二人とも気付いてたの
終わってるって
いつからかは解からないけれど
言葉にできない時間の方が長かった
言葉にして目の前にそれを顕わにする事に怯えていたの
お互いが最後の札を持った
もちろん使わないから切り札なのにね
互いに互いを消費し尽して
もう何も無かったのよ
その最後の一枚以外
二人ともなんだか悟ったような顔してたと思う
今思い浮かべるととても滑稽でおかしいわ


いつもの時間
いつもの場所
いつものテーブル
いつものグラス
ジントニックとライムが入ったビール



今夜だけは気取った台詞も言えるよな
そんな風に言ってたわ
空っぽの二人
本当は最初から出会ってすら無かったんじゃないかって
流す涙も懐かしむ笑顔すらここには存在しないようだったわね
もし持っていたのが毒だったら
何事もなかったように互いに飲んでたでしょうね
忘れ去られた歴史の跡が時間の風に流されて消えてゆく
そんなどこにでもあるような別れ



互いに刻み交わしあった言葉と魂
もう誰のものだったかなんて解からないの
混ざりきってしまって
出会いという病気
冒された私
それを切り取ったら死んでしまうわ
体中のありとあらゆる所に刺さった言葉
火傷の痣みたいにもう二度と消えないのよ