嵐の前の静けさ

窓をガタガタと揺らす強い風に気が付く
寝汗でじっとりとしたシャツが肌に不愉快にくっつく
だるい体を起こしてシャツを脱いで放り投げる
眼を閉じても開いても変わらない真っ暗
額に残る熱と開けっぱなしのりんごジュース
爽やかに甘い匂いに乾いた喉を潤す
空き缶の転がる音がカラカラと楽しそう
当たり前すぎる熱の上がった感覚に体温計で計る気にもなれない
不在着信と新着メールを知らせる光が点灯している
目障りな光を止めたくてケータイを裏返す
小さい頃から何かに一生懸命になったあとに熱を出すのは変わらない
なんだか子供のまんまなんだなって思えたら少し笑えた
ただあの頃はこういう嵐の前の夜が怖かった
何もかもを壊してしまいそうな風の音が怖かった
自分の存在を無視した圧倒的な風の音に自分が消されてしまいそうな感覚に
自分の無力感に踏み潰されて消し飛びそうな小さく弱い心に
今は風の音にびくびくする事もない
少しは成長したのかな
それともそれよりも怖い事を知っただけなのかな