皮膚の記憶

深夜の駅前のタクシー待ちの行列
遅くまで大変ですねと心の中で労う
ガラス張りのビルの2階から見る帰りの風景
人々の生活が溢れている
自分も埋もれている日々の風景
味のしないコーヒーを啜りながら思考は宙を彷徨う
コーヒーの匂いに意識を集中してもフロアのざわめきは変わらず
皮膚の薄い所が時折思い出す感触
のっぺりとした殻だけの体に突然一線滑る電流
鮮明で新鮮で懐かしくて甘くて思わず身をよじる
もし二度と忘れられないのだとしたらなんて残酷なのだろう
窓に映る自分は他人のような微笑を浮かべている