きみをありったけ抱き締めた

「抱き締めて? きつく息もできなくさせて」
抱き締めたはずのきみは霧散した
腕の隙間から気持ちの狭間から現実とそれ以外の間へ向けて
訳がわからなくなって抱き締めていた手でそこをこじ開けた
綿菓子みたいなきみの残滓が肌に当たって砕け散った
きみが抜けて開いたその空間の違和感がある場所に指を差し込む
抱き締める時と同じようにさらに力を込めて
差し込んだ指先を中心に罅が音も立てずに拡がる
その先で口元を緩くこっちを眺めているきみ
手を千切れそうな程伸ばす
きみはきみを中心にきみの中へ吸い込まれていく
このまま掴めずに・・・?と不安ともやもやした恐怖が顔を歪ませる
見慣れた天井
隣にはすーっと静かに寝息をしているきみ
放り出された手に自分の手を繋いでみる
高鳴った心臓もお構いなしにぼやけ始める思考
これも夢かもしれない
明日になったら何も覚えて居ないかもしれない
もしかしたらきみの手だけは全部覚えているかもしれない