夏の匂いと草の露

熱を帯びた祭りの火が消えて行く
森には普段以上の静けさが降りる
残った薪をくべながら夜空を眺めてた



ランタンの光の漏れるテント
寝静まったテント
なにやら押し殺した笑い声が聞こえるテント



森の梟と虫の音が響いてくる
そういや友達は虫の音を雑音だなんて言ってた



ぱちっ



赤くなった薪がはじける
視線を戻すと目の前には缶ジュースを持った女



「・・!? なんだよ 驚かすなよ」

ぎょっとした心を顔に出さないように努めて冷静な声で



「お疲れっ 寝ないの? はいこれ 差し入れ 喉・・・渇いたでしょ?」

素っ気なく差し出される日に焼けた手
その手に抱えられた炭酸飲料
森の黒と火の赤に照らされたその手の誘惑
ふいに力を込めて掴みたくなる



「ありがと 喉渇いてたんだ」
冷たい缶を受け取る
喉を鳴らして缶を煽る
隣に座る彼女
森の空気に馴染むようにただ何処かを見つめて







「・・・ねぇ 二人で向こうへ行ってみない?」

小さく燃え続ける炎をじっと見つめたまま
彼女の口は僅かに動いただけで
声だけが森の奥の方から聴こえた気がした



「え? 危ないよ もう遅いし」

わざとらしく薪をずらす



「そっか おやすみ」

立ち上がる彼女



「あ」

手を掴むこの手



「!?・・・何?」

驚いた表情でこっちを見ている



「あ いや・・・ うん なんでもない おやすみ ごめん」

力なく手を放す



「うん おやすみ」


ぱちっ


薪が音を立てる