最後の楽園

celame2006-01-22

お気に入りのポイント
気分が沈むとここに潜りにくる
ターコイズな空とエメラルドの海
目を細めるとはっきりとした境界線
力を抜き呼吸を整える
空を見ながら小さな覚悟を



体を世界に委ね深海に沈めると
自分が体から離れるような錯覚に陥る
どんなに荒れ果てた心も落ち着ける
僕の最後の楽園
地上にはない悦びが海底にはあった
毒々しいまでの原色の小魚達が珊瑚の合間を踊るように泳ぐ
それぞれの呼吸音しか聴こえて来ない



小魚達が一斉に一定の距離へ離れる
その真ん中に滑る様に降り立つ彼女
緋色の瞳がこちらを見据える
穏やかに微笑む口元
聞こえる筈の無い声が頭に響く
歌っているような



シュノーケルを外し手を振る
それを見て目の前に来る彼女
海の中に居ても彼女の匂いがわかる
生まれる前から知っているような懐かしい匂い



ポケットから鈍色の小さな指輪を彼女の指にそっとはめる
少し驚いた表情の彼女はそのまま僕を抱きしめて泳ぎだす
メリーゴーランドのように海を廻る
その緋色の瞳がさらに悲しげに輝く
小さく頷き背負ったポンプを外す
鳴いているように歌声が深海の世界に響く
優しく口付ける彼女
艶かしい唇
生々しく絡みつく舌
痺れる体
視界が暗く染まる



彼女に口付けられたまま眠りにつく
体に群がる小魚達
荘厳な花のように体を彩る
蜜のように流れ出す血液
もう寒さを感じない体は
母なる海と同じ温度になる