雪の卵

例えるなら
ぬるく纏まりつく様な鼻につく匂いと
虹を模して失敗したような異質な色
そんな工業用排水が泡を立てているように
自分の汚れが溜まって
他に何所も行き場が無くて
そこに淀んでいるそれ
気が付かないうちに溢れそうになってた
溢れたら視界に染み出すんじゃないかって
何にも見えなくなるんじゃ無いかって
何が見たい訳でもないんだけど



目の前に敷いた白い紙の上に
ビニールの小さな袋を破いた
ゆっくりと落ちる小さな結晶
天井の明るすぎる照明を反射してキラキラしてた



大きく呼吸をしてそれを待つ
力の限り吸い込んだ空気が巡るのがわかる
焼ける様に熱いのに感じる温度は冷たくて
髪の毛の先から
足の指から
何もかもが溶けていくのに
より確かに感じられる何か
心臓の奥のさらに深い所
少しずつ加速していく
脈を打っている



僕を溶かして回った空気を吐き出す
この部屋の空気を取り込んで膨れ上がる
夜の色という色を混ぜて濁ったように光りを帯びる
ただなんとなく眺めてた



体から水分が全て蒸発して
喉の奥から空気が漏れる
瓶に詰め込まれた黄金色のアルコールを流し込む
生まれて初めて味わうような味
遠い昨日に何処かで誰かの神様が飲んでた



鼓動が聞こえた
いつの間にか集まった空気の塊
ひび割れて粉々になった
散りばめられた空気の破片
その中から白い鳥が現れた
僕を見据えて



君は誰でもない


そのままでもいい


変わってもいい


いつか消えていく


それだけだ



そう言うと立ち尽くす僕をよそに
白く力強い翼を広げて飛び去った
僕の視界を埋め尽くすほどの羽根を散らしながら
なんとなく手を伸ばして掴む
ゆっくりと手を開く
羽根は白い花弁だった
見上げると無数の羽根は全て花弁になり
そして雪になった



極上の毛皮のような雪の絨毯に寝転ぶ
降り積もる羽根のような花弁に魅入る
どろどろに汚れ溶けた僕を雪化粧が覆う
覆いつくしてくれ
誰にも見られないように
いつまでも降り続ける



千切って捨てたいつかの手紙みたいだった