清潔な仮想世界

普段はこんな事を考えたりはしない
考える暇がないからだ
なにか合った時に
思い出す
死というキーワード



前兆はあった
死や無というキーワードが目に入ってきていた
虫の知らせのような夢もみた
それらは喉の奥にカルピスみたいに引っ掛かっていた
すぐに飲み込んでしまった



世界では毎日大勢の人が亡くなっている
電波に乗って届けられるバーチャルな死
ブラウン管の中では遠くの死がリアルに写されている



クリックした先にそのブログの死を知った
正確にはブロガーの死だ
ブロガーが死んだ
事実上ブログの死
けれども残るログ
永遠とも思える時間
想像も行き着くこともできない果て
残ったログはそこに辿り着くのか



クリックという扉を開ける行為にも似た動作
開いた扉は後ろで音をたてて閉まった
閉じ込められた部屋
壁も天井も床も全てが黒で塗られている
まるで泥水の中に放り込まれたみたいだ
息苦しくて
逃げ出したくて
もがく両手が掴める物は何も無い



子供の頃に迷子になり
ただただ寂しくて
自分の無力さと弱さが僕を泣かせた
それしかできなかった
そんな感覚
ひどく頼りなくて
どこか懐かしくて
少し大人になった僕は泣かなかった



生命の温度すら感じられるぬるい世界
感情までもぬるく鈍くなってしまったのか
涙の流れない瞳
顔も知らない誰かの死が悲しいのか
泣けない事が悲しいのか
胸だけがひたすら痛みを訴える
救いを求めるように空を仰いだ



救いたいのは誰か
救われたいのは誰か