無いから欲しがるのかな

celame2006-03-02

風が無い
生きるものの息遣いすら聴こえない



音の闇
無音という音が聴こえる



首筋から頬にかけて少し熱がある
まるで喉の辺りに心臓があって
自分の生命活動の全てがそこから始まっているような
その熱を取り囲んでいる他の部分
皮膚の表面から神経の深層までが静かな温度を保っている



ついさっきまで考えていた
その熱の残像が燻っている



迷っていた



思考の迷路を



出口を探して回っている
延々と同じ所を回っている



頭蓋が熱を帯びる
額が上気する
脳の神経を伝わる信号が加速し始める
細い節目のあちこちで小競り合いのように光が衝突して明滅する



迷う事に疲れて生き残る意思を失った心
何もしなくても生きていける
死なんて何処か隔離された世界の話
生という事を
生きる悦びを
なぜか認識できない哀れな脳




少しの刺激
少しの快楽



何もかもが抑えられた奴隷のような日常
代わりは何所にでもいる機械人形



それでもあなたはとくべつなんだよ
いまをたいせつにしなさい
めぐまれているのよ



あらゆる所から伝えられる優しいフレーズ
間断なく伝えられる振動



延々と繰り返す



眩暈が起きる
こめかみの辺りがズキリと痛む
重力が逆さまになって
体中の血液が頭に集まったかのように錯覚する
割れてしまいそう
体の中に汚物が溜まっている気がして吐き出したくなる
鼻腔の奥がチリチリときな臭い



聴こえ続ける



みんな耳を塞ぐ



だれかのせいでもいいよ
じぶんのせいでもいいよ



一秒前の自分だって今の自分からしたら他人



自分はなんて弱いんだろう
一人では本当に何もできない
時には歩くことも
時には眠ることも
何もままならない



だれかにたよられて
だれかをたよって
だれかをたすけて
だれかにたすけられて
だれかにみとめられて
だれかをみとめて
だれかをあいして
だれかにあいされて



本当に強い人は独りでも生きていけるの?
強さの果てに一体何を見るんだろう



自分が交換可能な部品で無価値だという事
そんな事は自分が一番よく知っている



何をしても何からも逃げられないし
変えられない
変り続けるのは自分
冷たく凝り固まった殻を傷つけて割り続ける
中から血塗れで視点の定まらない自分が這い出して来る
いままでも
これからも
ずっと続いていくだろう
他にする事も無いし



五感をいくら刺激しても感じない
皆こんな事を考えるのかなって救いを求めたりもした
冷めた笑いが浮かぶ位
何も無いんだな
自分には



だから自由なんだ