悪夢

気がつくとだれかを殴っていた
僕はそのだれかに馬乗りになり殴り続けている
鈍い感触が真綿に包まれたようにさらに鈍い
握りきった拳からは血が噴出して肉が見えている
そのだれかの顔は歪みきっている
それでも僕は殴り続けている
そのだれかはできの悪い粘土細工みたいに果てている
僕は何を考えているのだろう
僕の頭の中がここからではわからない
ここは何処なんだろうか



僕が殴っているはずなのに僕は遠くからみている
けれども自分の顔もだれかの顔もぼんやりとして見えない
僕はきっと鬼のような顔をしているんだろうか



疲れをしらない機械みたいに同じ動作を続ける
その暴力的な絵に沿ぐわない小さな背中はとても悲しく見えた
辺りは赤茶けた岩ばかりで黄色い砂が俟ってた
風がどこか遠くから唸り耳鳴りのように響く



そのだれかがにやりと笑った
跡形もないけれどなぜか解かった
僕の目からは涙が流れていた






「・・・ねぇ だいじょうぶ?」



重たい頭を起こして時計を見る
アナログな針が暗闇に浮かび上がって午前4時を指している



「あぁ・・・どうかしたか?」



水差しから直接水をごくっと飲む
渇いた喉に浸み込むぬるい温度



「泣いてるわ」



乾いた涙の跡を指で擦る



「なんだかおかしな夢をみたんだ」



目が覚めたこの世界の方が現実味がない事に恐怖を覚える



「疲れてるの?」



疲れてるんだと自分に言い聞かせる



「ん なんでもないよ 寝なおすね おやすみ」



目頭を押さえて目を瞑る







あの夢が何を表しているのかはわからない
もしかしたら自分の暴力的な欲望なのかもしれない
そのだれかも誰だかわからない自分だったのかもしれない
自分で自分の弱さを殴りつけて消したかった
それでもそれ自体が弱さという事なんだろう
最後のだれかの笑いが意味するところは
そしてそれに気付いて涙を流す僕
僕が殺してしまった僕



脳は眠っている間に記憶したものを整理すると聞いた事がある
その記憶が移動する過程で記憶の断片を夢としてみるそうだ