彼と彼女の描いた・・・

仕事から帰ってきて部屋の扉を押すとき
飲んでいるグラスの中の氷が音を立てるとき
電車から眺める空に筆を軽く滑らせたような雲が流れていたとき
袖を引かれ戻される絵
灯りの少ない何処か寂しげな畦道
絡めた指先に月を映す指輪
冷たい夜の光りを帯びるピアス
伝わる体温や流れる空気までも再生される
現実や仮想よりもリアルな感覚



まだ子供っぽさが残る横顔
この絵を目指して未来へ歩いているのだとしたら
それは冒涜に他ならない
紡いで来た昨日に施されて
華美な程磨かれた風景画
奥深くに根付きながら
空高く舞い広がる
けれどそこには
一摘みの心が所在無げに影を描くだけ



彼女は変わらぬ顔で照れたように笑う
時に懐かしむように
慰めるように
喜びを分かち合うように



それを見て
ただ悼む
祈りを捧げる
忘れる事は赦されない