最近空を見上げましたか?

携帯の電波すら届かない
夜に街の灯りが見えない
脱いだコートには染込んだ雪
窓の外には見慣れない空
何も遮るものがない空気は数多の星を映していた
つい普段見ている空と比べてしまう
酔った目で見上げる気が重くなるような重く濁った灰色の空
どちらが本当の空なのか
静寂と共に時間を潰すための言葉遊び
黒というよりは闇という言葉が似合う何もかもを吸い込みそうな空
浅はかな自分が見透かされているよう
背筋に雪の冷たさがしんと染込み目を逸らす
重たく濁った空の方が落ち着く
そう考えて思い直す
そういえば最後に空をゆっくり見たのは何時だったっけ
自分の脳裏にははっきりと浮かぶ灰色の雲と空
どこで見たのか
もしかしたら何かのCMか映画のワンシーンだったのか
美化されない記憶
痛みにも似た醜い空
思い出せないもどかしさ
自分を形作っているもの
そのひとつひとつがこんなにも不確かな事が確かに
自分に刻み付けた決意も
忘れないと誓った涙も
繰り返さないと拳を握り締めた痛みも
ここまで来るために
これから先へ行くために
失って来たのか
失い続けていくんだろうか
思い出せない痛みに
すでに失われてしまった事に気付く
何れそれが何だったかすら忘れてしまうのか
僕らは失われてしまったモノを取り戻す事はできないと生まれながらに知っている
何かを失って気が付く
その瞬間すら記憶に変わり
捻じ曲がりまた消えていく
消えて行くという事だけが浮き彫りになる
本当の空というものは吸い込まれて消えていくものなのだろうか



本当の空を見た事がありますか?