自閉症

「君は強いと思うよ なんていうか精神的に」
突然何を言い出すのか
ぽかんとしている僕に彼女は続ける


「別に変な話じゃない真面目に話している そんな顔をするな」
他のどういうリアクションを取れと


「何の前触れもなくそんなシリアスとも笑い話ともオチをつけれそうな話をされてもねぇ」
彼女は僕の目の奥を見るような視線を投げる
この視線には敵わないとつくづく思う
真っ直ぐで深く澄んだ湖の底のような色


「前々から考えていた 私と君は何が違うのだろうと」
これはまた哲学的な問い掛けだな


「たまに見せるしかめっ面はそのナゾナゾのせいだったのか」
彼女は少しぎくりとした


「そんな顔をしていたか ・・・というかそこまで私の事を見ていたというのが意外だ」
僕はどれだけ人外なのか


「ひどいな 僕ってそんなに人情なさそうなのかい?」
彼女が僕にどんな印象を抱いているか
彼女以外のその他大勢がどんな印象を抱いているか
ある程度はわかっているつもりだったがこういう形で聞くときつい


「あまり私には興味がないのかと思っていた 君は君以外にはあまり興味がなさそうに見える」
冷たい人とまでは言われなくてよかった
勝手に一息ついている自分の胸に気が付く


「僕は自分がしている努力に類するものを他の人に知られたくないんだ 僕は努力がキライだから」
僕の方に向き直った彼女は困ったような苦笑いをする
いつもの彼女の不器用な笑顔


「君のその考え方や選ぶ言葉 どれもこれもが君を表しているようだ 柔らかくて強くて真っ直ぐで」
僕の反応を窺うように
僕が投げ返すのを待つようにこっちを見ている


「そんな事を言われたのは初めてだ」
褒め言葉ととっていいのだろうか


「君は君の言葉を受け取る側の事を考えたことがあるか?」
どうやら褒め言葉ではないらしい


「あまり・・・ないな 話をしているときにはそんなに余裕がない」
僕は回りくどい話し方が苦手というよりはできない


「自分が話した言葉がどうなるか想像して怖いと思ったことは?」
何の話だ


「いや・・・わからないな 考えたことが無い」
やっぱりという表情
地雷でも踏んでしまったか


「うん やっぱり君は強いんだよ あまりに無自覚に研ぎ澄まされている」
僕は銃刀法違反か


「僕は僕のことを強いと思ったことは一度もないけれど強くはなりたいと思う」
褒められた気がしないのは
褒められてはいないからだろう


「君のそういう所が優しくて強くてとても頼りになる」
珍しく饒舌な彼女は続ける


「反面恐ろしい 自分がどうしようもなく救いようの無い人間に思える時がある」
そう来たか


「そっか 僕がいう事は少し変だから気にしない方がいいよ 僕と話をして傷つくのなら尚更」
真剣に考え抜かれた答えに安易に返せる術や真言を僕は持っていない


「なんだかすまない 今日は少し疲れているのかも」
一旦俯いていつもの苦笑いを返して彼女は帰っていった



彼女は僕に何が言いたかったのだろうか
理屈や頭では解っている
解っているが実感が沸かない
現実に起こり得る全ての事に説明がついても世の中は平和にはならない事に似ている
確かに僕は僕の事しか考えていないのかもしれない
僕らしさという自閉症にでも冒されているのか