無くて七癖

彼のペースに合わせて歩くのもだいぶ慣れてきた
彼も私と歩くときは普段よりゆっくり歩いてくれている
私が彼と居る事で彼の足を引っ張っているのかななんて思ったりもする



煮詰まった仕事の苛立ちで深く呑んだ夜に聞いてみた事がある
彼は彼特有の照れたような笑いを浮かべながら言ってくれた



「一緒に歩いているときのペースが一番心地良いんだよ 好きだよ? 一緒に歩くの」
思わぬ返答に私は返す言葉を失ってしまいそのまま沈没
とても幸せな夢を見た気がする
翌日の目覚めは飲んだ量に比例せず気持ちの良い朝だったから



それから私は彼と手を繋いで歩く時間がもっと好きになった
彼も好きだと言った時間
少し特別なものになった
寒さも退屈も感じない
なんていうか色に例えると白
そんな時間が並木と一緒に流れていく
止まっているみたいにいゆっくりと



急に彼がこっちを向いて笑っている
なんだろうと思い表情を作る
なあに?という顔を
彼は笑いながら



「それなんの歌?」



いつの間にか歌っていたことに気付かされる



「今作った歌」



恥ずかしいなと思いながら答える



「楽しそうだなと思って君が楽しそうだと嬉しいから」



え? 今なんて?



そんな事言われたらにやにやが止まらなくなる



急に他の人の目が気になる



うにゃ〜 困った