アイラの音

空から落ちる星屑
それは鉄屑となりこの地に積もっていく
酸の雨に朽ちていく錆びた街
赤く焼けた煉瓦と赤く剥がれた鉄の骨
赤くくすんだ赤くぼやけた赤い街
滴る濁った水がコンクリートに滲んで染みこむ
雨の染みこんだコンクリートと同じ様な月が照らす



荒廃していく生活
不規則も慣れてしまえば規則となる
荒廃していると思われている生活
悪くない
むしろ今の生活は気に入っている
目を顰める事無く空を見上げられるから
廊下に響く鍵を回す音
暗澹たる気持ちで扉を開ける
帰りを拒むように鈍く軋む扉
香の煙が少し漂っている
薄く窓を開けて外の空気を迎える
湿った雨の冷たさが鼻をくすぐる
新しい香に火を付ける
小さなガラスの小瓶にオイルを垂らす
シトロネラの苦味のある優雅な匂いが拡がる
甘ったるいラベンダー等の花の香りは苦手だ
この部屋と生活には些か上品過ぎる



硬いベッドに腰を下ろす
脇から自分が生きる理由のひとつの瓶を取る
濁ったグラスに注がれた琥珀色のとろりとした液体
戦火を潜り抜けてきた歴史と魂
口をつけると強烈なピートに心を持っていかれる
目を閉じて飲み込むと優しく複雑に舌に絡んでくる
熱い愛撫の果てにいつまでも残る樽の焼けた匂い
焦げ付いた土の壁と無造作に転がる木の樽が頭を過ぎる
人を傷つけるのは人
その傷を癒すも消すも開くのも人
街を焼かれた火と魂を樽の中の水に込めた彼ら
この体と血と肉に交ざる



いつまでも響けアイラの音