ああ またかと思うと吐き気がした

この時期は眠りが浅くなる
ただでさえ悪い寝付きに拍車が掛かる
睡眠が二日に一回程度になる事も珍しくない
人生のうちに数える位しかない衝撃を自分の中に突き刺していったソレ
その全てと言わないまでもほとんどがこの時期に起きている
この時期の熱い湿った風がイヤでも思い出させるその記憶
降り続ける雨よりも流れ出してしまった涙
蒸し暑さが気にならないほど湿度の高かった感情
今も背中越しに彼らはあの時のあの姿勢のまま
中越しに感じる空気の塊や涙の色もそのまま



何を置いてきてしまったとか
何かを忘れてしまったとか
そんな事は到底もう思い出せないのだけれど
中越しの彼らは何よりも自分にとって哀しい程リアルで
滑稽過ぎて可笑しくて泣けてくるそれもまた冷笑を誘って
せめてその漏れた冷たく乾いた笑いで心を冷やしてみる
何をしてても
何をみても
何を聞いても
何を嗅いでも
まるでソレが当たり前のように
目の裏の水面に映りこむ
陽炎のようにうっすらと
遠くに聞こえるあの音が誘う
記憶の扉の前へと
あの香りが鍵になっている事も知っている
開いてしまう扉
吸い込まれる自分の影のような心
脳や心や皮膚の遥か下の細胞に埋もれたソレ
ソレに飲まれ沈んでいく全ての自分



何年経っても自分は自分のままなんだなと思い知らされる
繋いだ指
名前を呼ぶ声
さらさらの黒髪
重なった影
どれも大切な自分で忘れたくないと誓ったはずなのに
思い出せるものは不明確に揺れて浮かんで不安になる
これからも大切なものを失う怖さ
ならばせめて壊してしまえという囁き
崖の上で背中を押してくる過去からの自身の手
この悪夢は終わらない終わらせない
あなたとの幸せな今の為に