或る男

いい男になりたい
いい男で居たい
いい男で在り続けたい
他の誰でもない君の為に



電気を消した部屋
シーツの上で膝をついてもぞもぞと動くシルエット
包まれるように口の中に入っていく
自分の尖った一部
そこから背筋を通って頭へ抜ける快感
器用に絡みつく舌の濡れた感覚
素直に反応する体
自分の頭や心にはない
体だけの特権にも思える素直さ
体は素直だよなっていうどこかの陳腐な台詞が頭をよぎる
集中できないからとこちらから触るのは拒否された
与えられる一方的な快楽に罪悪感が浮かび上がる
されている感覚に金を払って性を買うという事を思い出す
快感と焦れったさが交錯する
耐え切れなくなった自分の手は
甘い声を漏らしながら動く頭を髪を撫でる
頭から首筋
うなじに肩と指を滑らせる
胸の辺りで手を払われる
されるだけじゃなくてしたいのに
女々しい思いと行為に集中できない自分が嫌になる
口でされている時に満ちる支配欲
この人は今だけは確実に自分だけの人なんだと思える
その反面
ひどく残酷にもなる
「もっともっと」と頭の奥から聞こえてくる
小さな頭を掴んで力を込める
戸惑い困惑した声を無視してさらに力を入れる
「もっと咥え込んで」
ぞっとするほど低い声
自分の声?
苦しそうに咳き込む君をみて
脳の奥が熱く焼けていく
自分の手はもう鋼鉄のように硬くて脳の制御が効かない
喉の柔らかい部分の感触に赤い感情が燃え盛る
細く小さいカラダを守ってやりたいと思う
同時に
同じ強さの気持ちで壊してやりたいと思う
白く熱い液体を飲み干して笑顔で抱きついてくる君
ひどい事をしたという事よりも
自分の中の汚い部分を自覚した事に感じる罪悪
欲望に焼かれた体と冷たい思考
それを受け入れてくれる君
もっと
いい男になりたい
もっと
いい男で居たい
もっと
いい男で在り続けたい
もっと
熱く
もっと
冷たく
もっと
優しく
もっと
残酷に