二度寝

窓の外から小鳥の鳴き声。部屋には吹きたてのいつもの香水の匂い。フィルターでゆっくり淹れた薄めのモカ。飲み干した白いカップ。淵に僅かに残った緋。一人で居るときに響く時計の針の音がキライ、そう言って壁に掛けた音を刻まない時計は7時を指している。キミは少しだけ本当に少しだけ慌しそうに。それは普段のキミを知っているから解るだけであって、何も知らない人が見たら余裕を持ってるようにすら感じられるシグサなんだけれど。キミはやはり少しだけ慌てている。普段ならシンクに置くはずのカップはテーブルの上に置かれたまま。鏡の前で髪をまとめて映った自分をチェックする。それすら忘れて。時間なら余裕があるはずだろう?。むしろ普段の出勤時間からしたら会社の近くのカフェで朝食を取ってもお釣りが来るだろう。僕は朝の寒さと降りてくる眠気に取り囲まれている。ぼんやり考えている。今日は朝から会議か何かだったっけとか。僕はあと1時間半は眠れるな。空気に晒された顔は冷たい。キミの髪の匂いのする白い枕。カラダを丸め込む。抱えた両手が温かくて心地よい。カーテンの隙間から漏れる光が眩しい。キミはコートにマフラーを巻いてヒールの高い靴を履く。色の濃いフローリングの廊下の向こう。カツカツとヒールを叩く音が聞こえる。サビ付いたドアがぎぃとなって開く。光が溢れる。白い冬の光。ヒールの音は早く鋭く遠のいて行く。僕は温かさが自分の体から抜けて行く事に気が付く。温かい布団の中。自分の温もりに溺れて。冬の冷たい朝。ごぼごぼと溢れる温かみ。冬の空と同じに色になる肌。キミの笑顔。降りてくる目蓋。薄くなる景色。圧倒的な眠気に僕の脳みそはいとも簡単に平伏す。もう一度眠りに落ちる。冷たい冬の朝と冷たくなっていく僕の体。